ヘンデル『メサイア』415Hz vs コルンゴルト『死の都』442Hz
メサイヤ(ゲネプロ + コンサート)を弾く予定だったのが、仲間が病欠、コルンゴルトの『死の都』のプルミエ(新演出初日)を弾くことになってしまった。
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昨日、21日・・・・
ヘンデル『メサイア』415Hzでのリハーサルがあった。
場所はアルツァイ、マインツの東、車で20分ほど。
カトリック系、聖ヨゼフ教会だ。
10:00 - 17:30、長いリハだった。
メサイアには11の異なる版があるそうで、今回は1753年版、通奏低音のチェロとポジティヴ・オルガンは指揮者の目の前だが、他のメンバーは全員コーラスの後ろに立って弾く。(自分は座るけど)
コーラスの発声と音程があまり良くないけれど、指揮者兼歌手が手際よく作業している。
この時代の音楽、ガット弦を415Hzで弾くと実に楽しい。
弓はバロック弓(フランス式、オランダのBassil de Visser、バズィル・ドゥ・ヴィッサー作)を使う。
音楽は言葉であり、踊りだ!
昼にはコーラス団員からスープが出た。地元(ライン・ヘッセン)の赤ワインもグラスに1杯だけいただく。
リハーサルは18:00まで続くけれど、19:00にモーツァルト『ティートの慈悲』を弾くので30分早く切り上げさせてもらった。
静かに片付けて17:45発車する。80km, 50分の予定だ。
高速A61に乗ってフランクフルトを目指すが、ここで大失敗。
ジャンクションが工事中で、レーンを間違えた。フランクフルト方向A63に曲がれないじゃん!!!
2km先の出口で引き返そうとしたら、なんと工事閉鎖中!
このまま約20km北上して、ビンゲン付近でA60に入り、ヴィスバーデンからA66でフランクフルトに行くことになる。
合計で25kmの遠回りだ。
下手をするとオペラに間に合わない。170kmで飛ばした。
もう一人の首席コントラバス、B君に電話して待機してもらった。これで一応安心だ。
週末は慣れないドライバーが多くて走りにくい。
それでも開始15分前にオペラに着いた。
楽器を出しているとオーケストラ事務局から
「明日の新演出初日なんだけど、病欠が出たから弾いてくれ」
明日、すなわち22日は17時からメサイアの本番なのだ。
18時開演の新演出、E.W.コルンゴルト『死の都』に間に合うはずはない。
『ティートの慈悲』はとてもうまくいった。コンサートマスターが全体を引き締めていた。
エキストラの小柄な女性、実に綺麗なラインで弾いていく。
いつもは自信無さそうに人の後にくっついて弾いている第1ヴァイオリンが、見事にオケを引っ張っているのだ。
ブラヴァ、コンサート・ミストレス!!!
ブラヴィ、第1ヴァイオリン!!!
22:00, 終演後、対策。
シェフに電話しても当然ながら許可が下りない。(1本減らして演奏するというアイディア)
結局あちこち電話しまくってやっとメサイアを弾いてくれる仲間が見つかった。
何しろバロック弓、ガット弦、415Hzなので代役は難しいのだ。
なんと自分のコントラバスに張っているカテドラーレという弦を作っている本人、ニコラス・バルドック君だ。彼なら適材適所というやつだ。
メサイアの指揮者とコンサートマスターにも連絡、代役を送ることを報告する。
本当に申し訳ないけど仕方がない。
決着がついて安心、代役捜しを手伝ってもらったコントラバスの相棒(『ティートの慈悲』はバスは2本で弾いています)にビールをごちそうする。オペラのカンティーネ(社員食堂)で結局1時半まで飲んでしまった。
そこで何人か面白い人たちに出会った。
演劇舞台の方に出演しているシュタティスト(通行人など)だ。
アメリカ人女性(祖先はアフリカの人)のマッサージ師、ドイツ人舞台女優。
そして極めつきは背の高いスペイン人元登録レーサー。
彼、今はもう走ってないけど、150km(平坦)を3時間で走ったそうだ。スプリンターと平坦・長距離に強いらしい。
冬場の訓練方法や、夏と冬でどういう機種、価格帯を選んだらいいかなどを教えてもらった。
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(22日、日曜日)
時間ができたのでロードで遠乗り、と思っているうちに時間が経ってしまった。
最高級ママチャリでオペラに行った。
靴の履き替えが面倒で、最近は仕事へは黒靴で漕ぐ。ビンディングじゃないので実に走りにくい。
オペラの駐輪場でサドルを盗られて以来、サドルをシートポストごと抜いてロッカーに入れておく。
コントラバスは6本、同格首席のB君、副首席のH女に続いて、同格首席の自分は3番手に座った。半数が首席だ。
指揮はGMDのセバスティアン・ヴァイグレ。東ベルリンのオペラハウスで首席ホルンを吹いていた。
フランクフルトに来る前はバルセロナ・リセウ大劇場のGMDだった。
コルンゴルトの『死の都』はバルセロナ時代に振っていて、今回の楽譜はその時のもの。
楽譜にフランクフルト・オペラ元同僚、現在リセウ大劇場首席コントラバス、ブラジル出身のS.d.C.君の名前が楽譜に記入してあって、懐かしい。
コルンゴルトの『死の都』:
ベルギーの古都ブルージュでのお話。
主人公パウルが夢の中で、亡妻マリーへの想いと、マリーにそっくりな踊り子・マリエッタへの欲望に悩む。
音楽的にはリヒャルト・シュトラウスのパロディを感じさせる。あちらこちらにそっくりな響きがある。
演奏する立場としては実に弾きにくい曲だ。
オルガニックでないリズムなのでややこしいこと、
大編成大音量で音程が、特に不協和音がとりにくいこと、
その上楽譜が汚い。
それでもリハーサルを重ねるうちに、面白い響きになってきている。
ピットでは混沌としているけれど、客席には微妙な音の織物が舞っている感じだろう。
現在コンサートマスター2人いるが、1人は自転車の楽車、もう1人は風邪をこじらせて病欠だ。
他にも足の骨折、風邪、椎間板ヘルニアなどで第1ヴァイオリンに病欠が多い。
ゲネプロまでコンサートマスターサイドで弾いてきたエキストラのヴァイオリニストが、コンサートマスターの席に座っている。随所にあるソロは見事に音楽的にこなしている。グループもちゃんとついてきていて、昨日のミストレスと言い彼と言い、立派なものだ。
プルミエは無事終わった。満場の拍手とブラヴォーの嵐だ。
多分演出家に対してだろう、「ぶ〜〜〜〜!」がでる。毎度のことだ。
終演後プルミエ・パーティへ。
何ともお粗末な食事だ。ただだから文句言えないけど。